技術カンファレンス の設立と会計の話 〜SRE NEXT やってみた〜

特殊な話をします。
タイトル通り、技術カンファレンス運営の話なんですが、
おそらく世の中にあまり出ないような参考情報になると思うので
"コミュニティベース" で技術カンファレンス を運営、開催したいといった人がいれば参考にしてください。
(コミュニティベース = "Community based organization" ( CBO ), 主催に企業は一社も入っていないコミュニティメンバーだけで形成された組織を指します)

$ whoami

私はSREであり、会計専門家ではありません。
しかし納税も2020年に行った内容になります。
あまり聞けないネタだと思うので楽しんで読んでいただければと思います! :-)
※ ただし法は変わるものであり、もしもご心配なことがあれば税理士や税務署に確認することをお勧めします。

[最初に] どういったカンファレンス だったか

我々は日本初の SRE のカンファレンス SRE NEXT 2020 という イベント を上記にもある通り、コミュニティベースで 2020/1/25に開催しました。


左から関根 達夫氏、玉川 竜司氏、樽石 将人氏、田中 慎司氏
その他多くのエンジニアが登壇/参加
https://sre-next.dev/speakers

その他、参加体験記など素晴らしい記事が多数ありますので、是非「SRE NEXT 2020」で検索してみて下さい。

カンファレンス 団体の設立

さて、本題に入ります。
もちろん、簿記係・会計士・税理士など専門の人がいなくても開催できます。
しかし私は失敗してめちゃくちゃ苦労しました..;

その失敗したポイントも後ほど共有します。
それさえ抑えれば、あなたやあなたの運営はきっと幸せに近づくと思います。

最初に何かしらの形式で団体を作らないとすぐに以下のことが困ります。

  • お金の管理
    • 銀行口座名義が個人になってしまう
      • 入金側は不安
      • お金の流れが不透明になる
  • 会計、契約処理が税処理対応が煩雑、手間がかかる
    • 個人ベースになり、それぞれの担当者で行う必要があるため

なので初期当時こそ団体設立はしなかったのですが、すぐに設立するようにしました。

団体の設立にはいくつかの方法がある

新規団体の設立は、通常ですと一般社団法人かNPO法人のどちらかになると思います。(他にもありますが後ほど)

これらは大変良い制度なんですが、以下の注意点があります。

  • 共通して言えることは、会計はしっかりと行う必要がある

    NPO法人は、特定非営利活動に必要な資金や運営費に充てるために、特定非営利活動に支障がない限り、特定非営利活動に係る事業以外の事業(その他の事業)を行うことができます。 この場合、「その他の事業」に関する会計を特定非営利活動に係る会計から区分しなければなりません。
    明確な会計処理は、法人運営のポイントの一つとなります。

    • 非営利性の証明提出が必要
    • 審査が必要
  • 運営役員の設置義務がある
  • 定款変更には社員総会の決議が必要
  • 運用資金は自由に扱えない
    • 解散時も含む

と、私が調べた限りをざっくりまとめますとこんな感じです。

※ これだけだと、デメリットだらけに見えてしまいますが、そうではありません。
メリットについては後ほど。

任意団体とは

私は考えた末、「任意団体」として設立することにしました。
この「任意団体」とはなんなのか。

コネで税理士に相談した時に教えてもらったのですが、
簡単に説明すると「町内会」みたいな団体でよく設立しているそうです。
非営利を基本としているので、本質的には社団法人と変わりません。 (私はそう思っている)
人格なき社団とも言われています。
https://ja.wikipedia.org/wiki/%E6%A8%A9%E5%88%A9%E8%83%BD%E5%8A%9B%E3%81%AA%E3%81%8D%E7%A4%BE%E5%9B%A3

一般社団法人、NPO法人との大きな違いは、
上記の非営利性の証明 だったり、役員設置や総会決議の義務が無く、運用資金についても自由に扱えます。
(※ 税務署への会計報告などは別途必要で後ほど説明します)

「次回以降続けるかは今わからない状態で、いきなり本気出す」のはしないですよね?
なので最低限必要な準備・設計をして最小の苦労で最小のコストでローンチさせることにしました。

これで万が一解散の時でも自由に資金を扱えることが出来るため、皆の納得も得やすいと考えました。
(いきなり「解散時には運用資金が一旦ロックされる。出資した分の払い戻しを含めて、自由に払い戻しも分配も出来ない」ことを説明してもすぐに納得は得にくいと思いますしね)

[注意] 海外送金がある場合
海外、例えば米国でも任意団体は団体の定義として存在しています。
(あのインターネット技術の標準化を推進するIETFも任意団体です。http://rfc-jp.nic.ad.jp/what_is_ietf/ietf_section3.html)
しかし、国や銀行によっては任意団体口座が使えない場合がありました。
対策としては、"個人の銀行口座" で申請して入金後に団体口座に振り込む形となります。

任意団体でも団体の口座名義で開設できる銀行が存在する

昔はもっと多数の銀行が出来たそうです。
不正口座対策で、現在は任意団体名義で開設できる銀行は少数のようです。

調べた限り、2-3社くらい対応していて口座名義に全く個人名が入らないで口座が開設できる銀行が存在しました。

それが「ゆうちょ銀行」です。

団体の代表者は変わるかも知れません。しかし団体名はカンファレンスが変わらない限り変わらないです。
他の銀行ですと、任意団体口座が作成できたとしても、名義が ${団体名}${個人名} の形式になることがあるようです。
我々は法人のような口座名義が欲しいため、ゆうちょ銀行で口座開設することにしました。

口座開設審査

任意団体口座を開設する場合、審査が必要です。
法人口座を作成するのと同じです。
ただし、そこまで厳しくはありません。

必要なのは以下です。

  • 活動実績の証明
    • これは議事録やプロジェクト管理ツールの課題チケットを数点印刷して提出すればOKです
    • 議事録については、出来る限り最初の集まりから取っておくことをお勧めします
  • 代表者の氏名、連絡先
  • 事務所所在地
  • 運用規約 (定款は法人設立では無いので不要)
    • 活動内容と運用資金をどう扱うつもりなのか等が簡単に記載されていればOK
    • 協議により定めた内容を記載する
    • 下記にサンプルを表示

※ プロジェクト管理ツールは、nulab 社の Backlog を使用させていただきました。

これらを用意するのはサクッと出来るので、まずは規約案を私が作成して皆で協議して決定しました。
こんな感じです。 ( Backlog のWiki で管理。印刷モードで表示)
運営規約サンプル

また、コンプライアンスを軽視しない姿勢を示すこととお金の不透明さを排除するように心がけ、
財務・会計管理基準 を設けて 財務管理・運用資金情報 を常に運営メンバー全員に共有しました。

運用資金、出資金について「解散時」はどうなるのか明確にしておく

これは、「任意団体」が自由であるがゆえに特に必要なことだと思います。
実は「一般社団法人」等で非営利を掲げるならば、「解散時」であっても残った資金に対する自由はありません。
もし、ここが不明確であればどうなるかは自明なことですね。

先ほど書いた通り、次回以降も続けていく約束は運営メンバー間でしていません。
よって、解散時に出資金の払い戻しや運用資金の分割で万が一何らかのトラブルになるのは悲しいので、「予め解散時の基準は設けておき、協議を行う」 としました。
(※ トラブルとはメンバー間の不信の事ではありません。家のお金から出資している、休日に家族サービス出来ないごめんしているとか色々ある)
財務、会計管理資料の一部抜粋

人それぞれの考え方や個人事情、家庭の事情を考慮すると、この辺りを全員に納得得られるとは思っておらず、 悩みましたが「貢献度」で取り決めました。
(これら規定の資料も税務署に提出して説明しています。)

団体として全てを寄付にすることも検討しましたが、上記の通りそれは損する人がいたり人それぞれ事情があるので、ボランティアという言葉だけで強制的にワンマンで成り立つものではありません。

また、 技術カンファレンス初開催という特性上、数名のボランティアが身を削って貢献するだけでは足りない、身を削りすぎたボランティアが潰れる懸念がある ことは早い段階からわかってきました。
よって、「ボランティアで頑張れば頑張るだけ損」「なんで俺だけ」みたいな雰囲気に出来る限りならないようにしたかったのです。
それには可能な限り対応者を増やして負荷分散をする必要があり、運営チームのモチベーション維持のためにも常に色々考える必要がありました。
ただ、「お金のためにやってるんじゃない」というのは皆そうなので、その意見・モチベーションとのバランスも必要です。
もう、この辺りは葛藤ですね。様々な事情があるので conflict します。

実はこれの一番の対策は、「自由に配分できないようにする」ことです => 続けるなら一般社団法人にすることです。
しかし、先ほど書いた通りイキナリ一般社団法人を設立するのは我々にはハードルが高すぎました。
「今後続けるなら一般社団法人化しよう」とはメンバーとも話し合っています。
「目指せ法人化でconflict解消してmerge!!」なところです。ある意味それは 良い意味で git push -f かも知れません。
※ ただし、一般社団法人になったからといって上記の「モチベーション」や「不公平感」、「家族サービスへの代償」等 の問題が解決されるわけではありませんので熟考する必要はあります。

会計アンチパターン

ここに書くよりももっと多くのアンチパターンが存在すると思いますが、同じ轍を踏まないようにしてほしいと思ったことを書きます。

[パターン1] 会合費等を "全員" から立替費として都度徴収

例えば、「作業日を設けて集まろう!」「会議で集まろう!」とした時にその苦労を労うため、1人5,000円までの飲食代を出すのは必要経費とみなされます。

そういった場合、当初我々は運用資金が無かったので「立替金扱いで人数割りで全員から徴収」をしていました。
これが大失敗 だったのです。

お気づきの人もいらっしゃるかと思いますが、地獄の経費精算が待っていました。

私は会計専門ではないので、そのやり方でずっと毎回全員に小額づつ出してもらっていたのですが、スポンサー費等が入り、やっと経費精算できるっていう時に、これがめんどくさいめんどくさい。
思っていた以上にめんどくさくて自動化したかったけど、それほど対応出来ていない状況でした。
しかも振込手数料まで大きくかかってしまう。

そこで、数ヶ月分をまとめて合計で精算 -> 振込 という形をとらせてもらいました。

経費精算対策
  • [MUST] 必ず誰か1名が1件分の精算をまとめて行う ようにしましょう
  • [MUST] オンラインバンクが使えるようにしておく
    • ゆうちょなら
      • ゆうちょダイレクト
      • ゆうちょダイレクトプラス
  • 法人化出来るなら法人カードを作ってそれで経費精算 を行うようにしましょう

オンラインバンクは当然として、会計を予めまとめるのを必須とすることで精算処理が休日少しの時間でも楽に出来るようになります。

ただし、「誰か1人が精算」は、その1人に大きな負担がのし掛かります。
十分に話し合って決めましょう。
(万が一、カンファレンスが中止になってしまった場合は全員で出資し合って精算するとか)

[パターン2] 領収書を紙ベースで考える

  • 領収書は紛失もあります
    • 実際に1枚酔っ払って失くしましたーーーーーーーーー
  • 紙だけで管理していると受け取る/集めるのに時間が掛かって会計が後々面倒です
    • 会社ではないのでたまにしか会わない問題
領収書対策
  • すぐに写真に撮ってGoogle PhotoとかGoogle driveとか何かオンラインのサービスにアップしてもらいましょう
    • これで私はスムーズに経費精算が出来ました :-)

[パターン3] クラウド会計サービスを使わない

エクセルだけで頑張っていた時期が私にもありました。
(無駄?に関数頑張ってあーだこーだしたり)

そんなことより運用資金が入ったらクラウド会計サービスを使うこともとっとと検討しましょう。
(クラウド型が必須というわけではありませんが圧倒的初期コストは安い)
これは対策というよりオススメです。
最初の方から使っていると経費精算だけではなく、請求書/領収書の発行、税処理などスムーズに漏れなく対応が行えるようになります。
写真からも勝手に色々やってくれるので楽ですーーー!
開催時期に近くまでお金が無いからエクセルで頑張りすぎたため、色々とご不憫ご迷惑をおかけしてしまったと思います。
無料からも始められるサービスがあるので、ある程度大きな規模の場合はとっとと使うことをオススメします。(ステマではありません

税金について

法人税

任意団体の場合でも法人税の課税対象となる場合があります。
どういった活動内容なのかによって課税および税率が変わるため、一概に何%とは言えません。
また、基本的には一般社団法人とも変わらず、年800万円の収益を基準に税率が変動します。

消費税

スポンサーへ広告という見返りが通常発生しますし、チケット代に関しても売り上げと見做される場合があるので、課税対象になります。
2020年現在、売上高が1,000万円を超えてから支払い義務が発生するルールなので、その条件を満たした場合、原則として、課税売上げに係る消費税額から課税仕入れ等に係る消費税額を控除して計算します。

https://www.nta.go.jp/taxes/shiraberu/shinkoku/tebiki2017/a/01/1_11.htm

よって、任意団体であろうと何であろうと最初から会計帳簿はしっかりと付けていく必要があります。

源泉徴収 / 源泉所得税

これは、例えば「何かのデザイン制作依頼を個人に発注した」、「会場案内の個人のアルバイトを雇った」などで発生します。

「給与支払事務所等の開設・移転・廃止の届出書」の提出が必要です。

また、納税についてはどちら (団体側 or 対価を得た個人)がするのか税務署に問われます。
我々の場合はこちらで納税しました。

税額は「支払った報酬」+ α によって変わるため詳しくは以下をご覧ください
https://www.nta.go.jp/publication/pamph/gensen/zeigakuhyo2019/02.htm

税金についてまとめ

今回は団体の運営メンバー誰1人1円ももらっていませんし、最初から最後までギリギリでやっていて非営利活動でした。
帳簿も残高も全て税務署に提出し、非営利活動が認められたため今回税はそれほど多く発生しませんでしたが、素人にとっては複雑で難解でした。
ただ、カンファレンスを開催しようと思った時の大きなモチベーションである「社会貢献」という点においては、技術のことだけではなく、多少なりとも経済や税でも貢献出来たと思い、開催する意義をさらに感じました。

今後も続けていく方針に固まった場合、先に書いた通り一般社団法人(非営利)化を検討しています。
しかし、さらに税が複雑になり審査も厳しく会計が難しくなることを想定していて現状のままいくのは不可能だと感じています。(本業が別にありま寿司)
税務署の方とも相談したのですが、法人化する際は税理士との契約を検討しています。

まとめ

  • 団体設立方式は何パターンかある
    • 良し悪しはそれぞれあります
      • 皆で話し合って、合う形式で作りましょう
  • 任意団体の場合の注意点
    • 海外送金の場合は、団体口座が使えない
    • 法人カードは持てない
  • 会計/納税
    • 経費精算の注意点
      • 支払いはなるべくまとめて誰かが立て替えるようにする
    • 会計は最初からしっかり帳簿をつけるようにしましょう
      • クラウド会計サービスを使うことをオススメします
    • 運営団体がどのような形であれ、課税対象になる場合があります
    • お金に余裕が出たら信頼出来るプロに任せましょう
      • ※ 募集はしていません

さいごに

本業のSRE業務をやりながら数ヶ月このカンファレンスの企画運営と含めて会計・税処理を同時にやるのは大変でしたが色んな経験を得ることが出来ました。
コミュニティベースでわりと大きなカンファレンスを開催するのは出来なくもないことが分かりました。
また、それぞれ会社の異なる団体運営メンバーが集まって互いに協力しあい、大きなことが成功出来た事を誇りに思います。
カンファレンス運営メンバーの皆、この活動を応援してくれたスポンサー様、参加者様、そしてメンバーの勤めている企業様、自社、EM、SREチームメンバー、家族に感謝します。